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岡山地方裁判所 平成11年(行ウ)12号 判決 1999年12月21日

主文

一  被告が原告らに対し平成一〇年一〇月一日付けでした別紙物件目録記載(一)の土地のうち別紙図面斜線表示部分に係る道路位置指定を一部廃止できないとした通知処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

本件は、原告らが、その所有に係る別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件(一)の土地」という。)のうち別紙図面斜線表示部分及び同物件目録記載(二)の土地(以下「本件(二)の土地」という。)につき、被告において昭和四八年四月二日付けでした建築基準法四二条一項五号の規定に基づく道路位置指定(以下「本件道路位置指定」という。)のうち前記斜線表示部分に係る道路位置指定を廃止しても、本件(一)の土地が接道要件を充足しない事態になるわけではないのに、原告らのした平成一〇年七月二日付け道路位置指定一部廃止申請に対し、被告が同年一〇月一日付けでこれができないとして通知した処分が違法であるとして、その通知処分(以下「本件通知処分」という。)の取消しを求める請求である。

第二  事案の概要

一  争いのない事実並びに証拠により容易に認められる事実(甲第二ないし第四号証、第六号証、第七号証)

1(一)  原告A及び同Bは、訴外有限会社津喜不動産(以下「訴外会社」という。)から昭和四六年一一月二日本件(一)の土地を買い受けて所有する者であり(持分割合各二分の一)、原告Aは、訴外会社から昭和四七年八月二五日本件(二)の土地の贈与を受けて所有する者である。

(二)  被告は、建築基準法四三条一項の規定又は同条二項の規定に基づく建築基準法施行条例の規定に定める接道義務に違反する私道の変更又は廃止を禁止し、制限することのできる権限を有する建築基準法四五条一項に定める特定行政庁である。

2(一)  訴外会社は、被告に対し、昭和四七年八月二五日付けで本件(一)の土地のうち別紙図面斜線表示部分及び本件(二)の土地(以下「本件私道」という。)につき建築基準法四二条一項五号に基づく道路位置指定の申請をし、被告は、これを受け、昭和四八年四月二日付けで本件道路位置指定をした。

(二)  原告らは、平成一〇年七月二日付けで本件道路位置指定を廃止する旨の申請をしたところ、被告は、同年一〇月一日付けで、<1>岡山市道路位置指定指導要綱第一三条による廃止する道路に面した土地・建物の所有者及びその他の権利者の承諾書(七〇〇番一の土地の所有者、抵当権者及び根抵当権者並びに六九六番一の土地の所有者の承諾書)が添付されていないこと、<2>本件私道及びこれに接続する道路を通行の用に供している隣接住宅団地の住民の了解が得られた旨の書面の添付がないことを理由に、本件道路位置指定を廃止しない旨通知し、本件通知処分をした。これに対し、原告らは、平成一〇年一〇月一六日付けで岡山市建築審査会に対し審査請求をしたが、建築審査会も、平成一一年三月三〇日付けで本件通知処分に違法はないとして、本件通知処分の取消しを求める請求を棄却し、廃道にする処分を求める請求を却下する旨の裁決をし、原告らに右裁決の結果を通知した。

二  争点

本件の争点は、被告が平成一〇年一〇月一日付けでした本件私道に係る道路位置指定の一部廃止ができないとした本件通知処分が適法であるか否かという点である。

(原告らの主張)

建築基準法上の道路位置指定処分は、私人が土地上に建築物(建築基準法二条一号)を建築するに当たりその敷地が同法四三条に定める接道義務を充たさない場合に、自らの土地を用いてその要件を充足させるためのものであり、その指定処分は原則としてその開設者のためにあるものであるけれども、例外的に当該位置指定道路に接し、その存在を前提とするとき接している土地が建築基準法上の接道要件を充たしている場合にはその利益は反射的利益にとどまらず、保護する必要があると認められることから、その位置指定道路の廃止に当たっては右の土地の権利者の同意を要するとしたものであるところ、七〇〇番一の土地は国道一八〇号線に接しており、本件私道を廃止しても建築基準法上の接道義務を充たすものであるから、その同意を得る必要はなく、六九六番一の土地は細長い形状の土地であって、右の土地の状況からして建築基準法二条一号に定める建築物を建築することはできないから、同様にその同意を得る必要はない。また、被告は、本件私道及びこれに接続する道路を通行している隣接住宅団地の住民の了解が得られた旨の書面が必要であるとするが、第三者が本件私道をその通行の用に供することができる利益は、建築基準法による道路指定位置処分の反射利益にすぎず、右の通行が日常生活をする上で必要不可欠であるといった特段の事情がある場合があるならば格別、そうでない限り、右の書面が必要であるとは認められないところ、隣接住宅団地住民は他の公衆用道路を用いることにより、自動車通行を含め、その通行に支障を生じないものであるから、右の書面は必要でないというべきである。

第三  争点に対する判断

建築基準法(昭和二五年法律第二〇一号)四二条一項五号に定める道路位置指定が当該私道を築造しようとする者の申請に基づき四三条一項本文に定める建築物の敷地に必要な接道要件を充たすために設けられた制度であることからすると、同法上明文の規定は存しないもの、当該私道を廃止し、又は変更することも、所有者その他当該私道につき占有支配する権原を有する者(以下「所有者等」という。)の申請に基づき特定行政庁においてなしうるものと解されるところ(なお、岡山市建築基準法施行細則(昭和四八年岡山市規則第五六号)一七条三項参照)、右の道路位置指定制度の趣旨に加え、その実効性を担保するため、四五条一項において当該私道の変更又は廃止によってその私道に接する建築物の敷地が四三条一項の規定又は同条二項の規定に基づく条例の規定に抵触することとなる場合に、特定行政庁は、当該私道の変更若しくは廃止を禁止し、又は制限することができる旨規定していることからすると、特定行政庁において当該私道につき所有者等の申請に基づき当該私道を廃止し又は変更することができるのはこれによって接道要件を充たさないこととなる建築物の敷地が存在しない場合に限られるとともに、右に述べる建築物の敷地が存在しない以上当該私道の所有者の申請に応じ、当該私道を廃止し、変更する義務があるというべきである。もとより、当該私道に対して通行等を目的とする権利を有する第三者が存在する場合には、その所有者等にあっては、第三者の権利を害し得ないことはもちろんであるから、当該私道の廃止・変更につき法的制約を受けることとなるけれども、特定行政庁は、右の第三者の通行を目的とする権利の存否につき認定判断する権能を有しないのであるから、当該私道が周辺住民にとって唯一の生活道路であるといった特別の事情があり、かつ、この事実が確定判決等の存在によって明白であるといえる場合は格別、そうでない限り、当該私道の廃止・変更につき右の第三者の承諾が存在しないことを理由に、当該私道の変更若しくは廃止を禁止し、又は制限することは許されないと解するのが相当である。ただし、建築基準法は、一条に規定するように、建築物

の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉を増進することをその目的とするものであって、当該私道の通行を巡る私人間における通行権その他の権利の保護は、当然には右の法目的の実現に当たる特定行政庁において掌理すべき事務に含まれず、右の権利の保護は、本来所有者等と第三者間の訴訟手続等によって図られるべき筋合いのものであるからである。

そうであるところ、被告は、原告らの本件私道のうち本件(一)の土地の一部に係る道路位置指定の廃止申請に対し、先に第二の一において明らかにしたとおり、<1>岡山市道路位置指定指導要綱第一三条に定めるところの廃止する道路に面した土地・建物の所有者及びその他の権利者の承諾書、具体的にはいずれも本件(一)の土地の隣接地である七〇〇番一の土地の所有者及び抵当権者・根抵当権者と六九六番一の土地の所有者の承諾書が添付されていないこと、<2>本件私道及びこれに接続する道路を通行の用に供している隣接住宅団地に居住する住民の了解が得られた旨の書面の添付がないことを理由に、右の道路位置指定の一部廃止ができない旨の本件通知処分をしたものであって、本件私道の道路位置指定の一部廃止によって接道要件を充たさないこととなる建築物の敷地が存在することは、被告において何ら主張立証しないところであるから(なお、甲第三号証によれば、本件私道に接する七〇〇番一の土地はその北側を国道一八〇号線と接し、かつ、同土地の上に建築されている建物は国道一八〇号線と接する部分に出入口を有し、仮に廃道されてもその出入りにつき支障がなく、六九六番一の土地はそもそも建物の建築が物理的に不可能な形状の土地であることが認められる。)、本件通知処分は、右の<1>及び<2>の理由の有無につき判断するまでもなく、違法であって、取消しを免れない。

なお、岡山市道路位置指定指導要綱第一三条では、廃止する道路に面した土地・建物の所有者及びその他の権利者の承諾書の添付を求めているが、右の関係者の承諾の有無は、当該私道の廃止及び変更によって接道要件を充足しない建築物の敷地が生じるか否かを確認するための判断に当たって有益であることがうかがえることからすると、右の指導要綱に従い、道路位置指定の廃止及び変更申請に当たり、申請者から任意に関係者の承諾書の提出を求める措置自体が違法であるということはできない。

第四  結論

よって、原告らの請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉温 裁判官 酒井良介 裁判官 竹尾信道)

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